大江健三郎『洪水はわが魂に及び』1973 を読んだ時のメモ

新潮文庫

1973年の作品であり、『万延元年のフットボール』(1967)の次の長編…


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上巻(2025/02/04 に読了)


9 この世界でもっとも善きもの、すなわち鯨と樹木のための代理人
おおきいさな、大木勇魚と変えていた。


17 あらゆる乱世の「自立の人homo pro se」がそなえたような世俗的狡智をあらためて


18 それからかれは警官たちの言葉を、かれ自身の内部にある、しるしの実在感にみちびかれて補填しながら、あらためて再現した。【横溢する語り-騙り】
 19 自瀆する


22 それになにより、自分の腕くびを切ろうとするガキなど気持が悪いから、


連中ノ仲間ハ追イカケテクルシ、ガキハ重イシ、ソレニナニヨリ、自分ノ腕クビヲ切ロウトスルガキナド気持ガ悪イカラ、トウトウ自分デ手錠ヲ外シテ、刑事ハドンドン駈ケヌケテ助カッタ。


22 しかし今はまだ立枯れたものが迷路をなしている湿地帯を、血まみれの大男と、手錠によってかれにつながれた少年が、全速力で横切って行ったのだ、真夜中に。
 22 セイタカアワダチソウ


23 タコの自食


27- 2️⃣
28 それは一時間後に、世界最終戦争がおこったとして、


29 いちど思いちがいから、出口のない廊下の行きどまりにむけてジンを


32 立ちどまらなかった、立ちどまりはしなかった、


37 暴力的な肉体の簗を構成
38 トーチカに籠っている気狂いだよ、


そのジンを抱きあげて排尿させてやり、よそよそしく冷たい尿の匂いのなかに、あたたかく生きている新しい尿の匂いをかぎつけ、勇魚は自分自身もまた永ながと排尿した。(39)

 

46 罐の蓋に古い木版を模して印刷したマークを
 イルカの背で竪琴をかなでるArionの図柄だ
 47 癌にとりつかれている政界の実力者 ジンの祖父
49 スローガン 樹木のように、足を地面にもぐらせよ、
 直日さん(なおび) ジンの母親
大放屁警官←47


3️⃣50- 見張りと威嚇
51 苦痛にたえつつ自分の肉体を痛めつけ続けるということはなかった。
 52 ジンは、窒息の苦しみをこらえつつ頭を水につけているということはしなかったのだから、


53
くる病(くるびょう、独: Rachitis、佝僂病、痀瘻病)とは、ビタミンD欠乏や、何らかの代謝異常によって発症した、骨の石灰化障害である

 

65 暗い炎のように熱をおびている外斜視の眼をした小娘が、木椅子を抱きあげた勇魚にささやきかけたのは、オジサン、オマンコ一発ヤッテミマショウヨ!という唐突な誘惑にほかならなかったのだ。(65)


66 悪夢は核戦争におおわれていた。(3 sentences )


69 お襁褓をとりはずして
ジンの放尿


 74 木の人形みたいな全裸の娘
75 その模造ペニスと拳とは、朱色に、すなわち外壁の丸にバッテンと同一の絵具で塗られている。
 あの遊園地で会った青年
→82 洗い落としてはあるがなお朱色の塗料の跡がみえる右掌を


83 樹木のことと鯨のことを考えているよ
 86 おれたちが協力をたのみにきたのは、仲間がひとり熱を出して
←82 あいつに、ひきうけさせた?「ボオイ」は熱がひどくて吐いてるよ、


87 青年 勇魚は見きわめなかった。
 88 濃い漿液のようなものを浮べている深く切れこんだ眼頭を
 89 乳房


97 法廷にはかれを糾弾する証人として、


98- 5️⃣鯨の木
100 蝗イナゴ、伊奈子
102 タカキ 喬木


110 不名誉な病気を想像しているその薬剤師


119, ところがかれらの生活に闖入してきた小娘が、おそらく三階の発熱したガキが野鳥の声をいやがるといった理由で、避難所の生活慣習をぬけぬけと変更したのである。


120 ケシ粒ほどの声を再生しているのかもわからず、


127 ーーそれにさわるな!この車は盗んできたんだからな、それは他人のノオトじゃないか!
127. ーー稜線に並んでいる木なら、アカマツケヤキだ、と勇魚はいった。
 133 アカマツケヤキの丘陵を眺めわたしていた。
135 おれは、おれの地方の子供の全集団が、いっせいに夢みる夢を代表している夢を見たような気がするんだ。


148 自由航海団


151- 7️⃣ボオイ抵抗す


159 縮む男。正常な大人の声の部分と、


 膜のなかからまた、膜に包まれた全体が出てくる。


176- 8️⃣ 縮む男
 178 なお不可解な膜のごときものにその肉体も意識もつつみこんでいる「縮む男」


178-179 「告白」
178 勇魚は避難所にこもった後、やむをえない外出先で疲れから酒を飲むと、酒精分がたぎらせた憎悪を避難所にもちかえって、かつての知人、友人にむけて糾弾の手紙を書いたものだった。


178 「縮む男」40歳
 35歳の誕生日の深夜にそれが始まったのだと、まずかれは自分の青春の終りを強調しながら、「縮む」体験の始りを語ったのである。
180,181 背筋にそってパチンコ玉が昇り降り。
189 まったくカジモドだよ


199- 9️⃣大木勇魚の「告白」
 199 自殺にはふたつの型があるといっていたよ。
200 おれの息子は、食物をまったく受けつけなかったり、どんな自己防禦の姿勢もしないでひっくりかえったりした。どうしても自殺しようとしているのだとしか考えられない子供だったんだよ。


223- 【10】相互教育


227-228 幻ヴィジョン→237


232 かれは自分のprayerの実体を、近い過去のうちに
まだつづいていたジンの不意の顛倒を真似てその苦痛の程度をさぐろうとみずから顛倒したはずみに、歯を折ってしまった日のことを思いだした。


236 「赤面」
まさにそれに由来する綽名で


243 はっは!ボウイ後の車に連絡に行ってくれ、大震災訓練をやるから!
 そういうと多麻吉は高速道路の坂になった入口に向けて徐行しはじめていた車を


【11】自己訓練としての犯罪 252-
254 小型ポータブルテレヴィ。未来学者となのる中年男→255 たまたまその初夏の学会シーズンに都心のホテルで国際的な未来学会が
255 チェーンストア形式の肉屋に、毎火曜日朝、枝肉を配達して廻る食肉会社のトラック


256 ーージン、ハンバーグ、つくろうね!
 257 アア、アー。という声を
オックステイル(牛の尾)、朝鮮スープをつくってるわ、テグタンを。アア、アー
259 ナイロンストッキングで覆面している2人の男が、若者ひとりの重さどころか150キロもありそうな枝肉を、それも柔らかくたれたやつを、地面にひきずりかねぬ様子で運んでいるのだが、

 


260 黒ずんだ紫色の実と、なお珊瑚色に明るいまやの実が、およそ同一の植物の果実とは思えない荒あらしさで混交している。
 勇魚たちが樹木のしたに立っても怯えて飛びさるどころか、熟した実をすべて食いつくすべく狂奔しているムクドリの大群の、おそるべくかしましい啼き声が勇魚たちをおそった。
262 ーー強姦やっちゃったよ


264 そこには草が生えていたよ。赤みがかった青色の太い茎から、細長い葉がすくすく出ていて、そのいっとう上は青いこぶしになっていて、それを剥いてみたら茎に
265 それはおそらくセイタカアワダチソウであるにちがいない、
 268 大きい優しさを持つことができる気がしたわ。270 終れば自殺しようと決意している者の、永ながとした切実な強姦が。 271 重い花房が揺れるように全身で揺れながら、伊奈子はオートバイ乗りの背にしがみついてふりむきもしなかった。


【12】軍事行動を舞台稽古する 272-
272 妻の直日ナオビ このあいだはひどく殴られていたけど→49 そいつは、直日サン、殴ッテモヨロシイデスカ?と呼びかけたんだ


275 怪がヤマモモとヒメユズリハを気にするなんて。。


279- 「赤面」の運転、両親がふたりとも自殺したから


282 喬木。ところが、多麻吉はじつは大地震を惧れているのじゃなくて、むしろ待ち望んでいるんですよ。


283 ...むしろ僕はそのうち人類が、みんな次つぎに自由に思い立って自殺していってしまうようになるのじゃないかと思っていますよ。


285 二台の車は、川魚をとる簗ヤナみたいに小規模の、最後の有料道路出口を出てそのまま下降した。


下巻 昭和48.9, 1973(2025/07/05 に読了、)


【13】縮む男の審判


12 報道写真家協会賞を受けた組み写真だ、筋萎縮症の子供たちの施設を撮ったんだね《縮む子供たち》
→《私がまず鮮明な印象をうけたのは、施設の子供たちにおいて時間が逆に流れるかのようであることでした》


15 いちめんに陽光を照りかえして輝いている鏡面のような海を背後に、 ケヤキ
 21 あらためね溶岩礫を板で囲んだ段だんを降る時、勇魚は 2本のケヤキを見やってその樹木の魂にアリガトウゴザイマシタ、息子は水痘にカカッテイルダケデシタ


22 しかしその喬木とのあいだに「縮む男」をへだてて、
22 多麻吉が担いでいたライフル銃は、「縮む男」のいる場所を壇と呼ぶとすると、その真下に法廷警備の役割をになっている「ボオイ」が膝のあいだに立てていた。


27 ーーしかし、それがなぜ本当のことだといえるんだ?
⭐️31 ーーおれはな、自由航海団が弾薬類はいっさいもたないで出発した日、もうすでに武器庫のダイナマイトを、カメラケースにいれて運んできたんだ。
 自由航海団から殴られて追放されれば、すぐさまそいつをもって熱海の銀行を襲って、それからおれは失敗をよそおって自爆することができる。


38 白い涙
39 眼からこめかみにかけて
 40 縮む男におかまをほらせられたやつは他にもいるだろう?→ボオイとふたりの若者たちが腕をあげたのである


50 「ボオイ」は、この裁判の記念品をつくりたいんだな?夢のなかでもう二度と、何も起らなかったと同じになると泣かなくていいように!
 51 肛門から出ている棒を樋にして間歇的に噴きだす血のなかに膝を突き、また直接その血を浴びながら、ドクターひとりがまともに努力しているのである。


55 (おれが子供の時見た熱病の夢の方法で、
60 ムクドリ


【15】逃亡者、追跡者、残留者 63-
69 トライアンフ750、ところがな、おれたちの車が熱海の駅前についたら、銃を伊東へ運搬した班が待っていたんだよ。
70 多麻吉、多摩川
 71 胸のなかの真黒の叫び声は、←本当の事


75 広場の入口で
 かれを囲繞する喬木群と、その根方を苔のように執拗におおう灌木群とを、


 77 畚もっことしてつかわれ


79 罪を他人に贖ってもらうことがどうしてできますか?と勇魚は抗議するが、喉の灼けつく咳を間歇的にほとばしらせる喉頭癌のミイラは、窪んだ眼窩いっぱいの涙から水蒸気を立ちのぼらせつつ(陽ざしの熱気が確かにインドのものだ)、だめだ、時間がのびたからもう一万五千ルピーやれ、罪とは


73 兵隊は自分を一発撃って死んだから。
 81 伊奈子


【16】性的な微光にむかって① 92-


97 陰阜 いんぷ


104 飯場からかれらの生活の痕跡をのぞくために働き、集めたすべての塵芥を
 105 ムクドリはいまや、新旧二本のケヤキ


109 倉庫のなかのクルーザー脇に、まだボオイだけ
115 紙に書いた英訳のドストエフスキーの最初の一枚
 116. すでに昏れなずんだ空と煙とが同じ色をしてきるためにプリズム双眼鏡にうつらぬのであろう、その煙の幕の向うへそいつらがはいりこんでしまうのか、ブルドーザーで削った陥没に跳び降りてて消えるのか……
 118 むしろ縮む男は、明日にでも船を出せ、といったのじゃなかったか?


123- 【性的な微光にむかって、2】


126 あの、つまらぬ上半分だけのクルーザー


127 スクーナーのイメージを掘りだそうとしてわずかな迎え水を
127 自分の額の汗粒が、敷物の汚れのスクーナーに涙のように一粒おちる。そしてそれは実際に自分の涙かと疑われる。


131 多麻吉の二つの道


134 写真というものの根本的な奇妙さは、画面に決して実在しない男の想像力が画面の「現在」に偏在していることだ。


138 冷房のある建物に入るとき、人は自分が背後にした戸外の満ちあふれた夏を過度なほど
145 このあいだ病室に来てどなった時、直接あなたは性に関することをいわないけれども、


146. 直日の、頸筋や垂れたカーディガンから突き出ている肱が鳥肌立って蒼黒いのを、勇魚は急に胸をつかれる思いで眺めた。


153- 【性的な微光にむかって3️⃣】
 156 いつかもいったがこれはトーチカじゃない。


下163 おれはインドで博物館になっているマハラジャの武器庫を見学したけれども、(ジャイガール要塞)

 

170 自分の狂気をこの避難所に閉じこめておく、、ジンはここで隠遁生活をはじめてからやっと自発的に生き延びる気になったんだし、、


175 ペニスの先端をつつみこむ躰の奥の紐帯が自律的なさざなみを力強く起した時、アーアーと声を発しながらたぎる熱さの涙を流している伊奈子の顔を、勇魚は真赤な暗闇のうちに見た。殺してやる、殺してやるぞと頭の内側に叫びたてながら、かれは長ながと射精した。


→176 勇魚はもうひとりの見張りのようにいかめしく目を見開いてすでに赤くない暗闇を見つめた。。


194 しかしそこには匿れている人間しかいないということが、幼年時の悪夢のような超現実主義的奇怪さを風景にあたえている。


199 草の茂った斜面に勇魚とジンが歩きならした痕跡(歴史!)が小さな道をつくっている。その裸の土が剥き出された窪みひとつ、ふたつにいま落下した水がたまって陽を照りかえしている。


スカンポの茎みたいな褐色の首筋をさらしたまま、あきらかに羞恥をあらわしてじっとふりむかない????

 

208 俘虜をつかまえるぞ。209 Bakkgar ! 


【第20章 鯨の腹の中より2️⃣】212-
214 ツバキとツゲの若木群→216 ツバキとツゲの苗木の列の上に、バラバラ跳んでくる黒い鳥のようなものを

 


226 10:30、建物の外壁を叩きつづけていた発煙筒とガス弾の響きが、驟雨の晴れぎわのようにさっと消えて行った。
227 10:35、奥様、あなたの御家族は本当の自由をあじわわれるでしょう、と答えるべきだったことに遺恨の思いをこめて
 228 半畳をいれた
 232 11:30. 
233 午後1時に、直接警察当局の、または仲介者としての報道機関をつうじての返答が提示されるように、要求します。


236 ーーアンテナをひろいに行ってみるよ。修理して、今度は銃撃されないように犬の背なか程度の高さにして、屋上のまんなかにコンクリートで押えたら、なんとか役に立つと思うんだ、と無線技師が怒りと恥にくぐもっている声を発した。


239 無線技師が死ぬ。とは書かずに
239 階段の側にあたるいちばん端の銃眼に、異様に明るい血液がしたたり流れた。


240- 【第21章、鯨の腹の中より3️⃣】


240 午後1時、
249-250 手榴弾をそういうふうに使ってはいけないよ、ダイナマイトを爆発させるよ、と赤面


253 あんたの奥さんが。市民は個人的な犠牲をはらっても暴力に屈してはならないなどといって、
おれの妻は政治家の見習いみたいなものになったばかりでね。


 256、3:35 発円筒とガス弾が
257 CSガス、稀ホウ酸液。(それはほとんど盲になった者らの作業として危険きわまりないものだったが、)
258 かれらは力をふりしぼって立ちあがり、なお催涙ガスがただよっている玄関を、濡れタオルで口を覆って螺旋階段へ駆けぬけた。


261 新しい宣撫放送にそなえた。その瞬間勇魚は、女装した怪が語っているという奇妙な錯覚をいだいていた。   そういう声で、直日が語っているのである。


267 なお避難所をつつみこんだままの嘲罵の鯨波(とき)のただなかで。爆発。


269 喉の灼けつく思いの待機はあらためてかれらのものだ。


【22章、大水ながれきたりて 我がたましひにまでおよべり】270-
276 自由航海団はおれ(喬木)がつくったんだぜ
 278 勇魚のペニスが萎縮したままつつましい誇りをこめてピクリと動いた。。


278-279 バルカン半島の少年が蘇生したのを感じとった時、勇魚がはじめに感じたのは湯玉のはじけるような恐怖心だった。
 〜怪は、老年の自閉的な恐怖心から麻痺剤注射を拒んでいるだけなのであって、バルカン半島の少年のことなど一瞬たりとも思いだしてはいないのかもしれない。。。

 

 

287 腹にいちもつある時の喬木のやりかたそのままに。
288 救急車がすでに暗い翳をよどませている草原を横切ってやって来た。
 290 その西方の空からケヤキの巨木に数知れぬムクドリの群が舞いたった伊豆のヴィジョンが戻ってきた。
←267 数かぎりない黒い固体の集中と反転は、伊豆で見た巨大なケヤキから渦巻き立つムクドリの大群を思わせる。


297 瞑想用の足場の四角な地面から泥水が激しく湧きおこっているのを見た 〜それにしてもすでに踝をひたすほどの、この水勢の猛だけしさはどのような流体力学的関係にもとづくだろう?


-300


301 川本三郎の解説。


つまり彼ら「少年」たちは、通常の成人過程に起る、少年時代の心の傷の回復→大人と言うベクトルとは逆に、隠していた心の傷の告解という退行のベクトルによってはじめて、お互いにヴァルネラブルな人間としての連帯のきっかけをつかみうるのである.