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2014/11/3 14:22 にフランス語の授業で読み、
2024/06/15 14:04 に新潮文庫を
7 レストランで、セレストのところで
10 窪田啓作 訳
→そのとき、例の管理人が背後から入って来た。駆けてきたに違いない。すこし口ごもって、「棺にはふたをしましたが、故人をご覧になれるようネジ釘を外さなきゃなりません。」と言った。管理人が棺に近づく途中で僕は止めた。「ご覧になりたくないのですか?」と管理人。僕は、「ええ。」と答えた。
彼は途中で口をつぐみ、僕は気詰まりになった。そんなことを言うべきじゃなかったという気がしたのだ。少し時間を置いて、管理人は僕を見つめ、「何故です?」と訊いた。でも非難がましくはない。ただ理由を知りたいといった口ぶりだ。「わかりません。」と僕は答えた。すると、彼は、白い口髭を捻(ひね)りながら、僕の方は見ずに、「なるほど。」とはっきりした口調で言った。管理人は、美しい、薄青い目をしていて、顔色は少し赤みがかっている。僕に椅子を勧め、自分は少し後ろに座った。付添いの看護婦が立ち上がり、出口に向かう。
看護婦が行ってしまうと、管理人が口を開いた。「ではお一人にしておきます。」そのとき僕はどんな仕草をしたか分からないが、彼はその場に残り、僕の後ろに立った。背後に管理人がいるのは気詰まりだった。部屋は午後の終わりの美しい光に溢れている。モンスズメバチが二匹、ぶんぶん羽音をたてて天窓にぶつかっている。すると眠気が襲ってきた。僕は前を向いたまま管理人に訊いた。「ここは長いんですか?」「5年になります。」と彼はたちどころに答えた。まるで随分前からその質問を予期していたかのようだ。
それから、彼は大いにしゃべった。自分はまさかマランゴの老人ホームの管理人で終わるとは思ってもみなかった。歳は64で、もともとパリの人間だ。そう聞いて、僕は話をさえぎり、「ああ!こちらの人じゃないんですか?」と訊いた。そして、僕を所長の部屋に案内する前に、彼が母さんのことを話題にしていたのを思い出した。彼はこう言っていたのだ。母さんを一刻も早く埋葬しなくてはいけない。特にこの国では平地は暑いから。そのとき管理人は、自分はそれまでパリで暮らしていて、それがなかなか忘れられないと言っていた。パリなら、時には3,4日、故人と一緒に過ごす。こちらではそんな時間は無い。すぐに霊柩車の後について行かなきゃならず、自分は未だにそういう考え方に慣れないと。すると、彼の妻が口を挟んだ。「お黙りよ、この方にお聞かせする話じゃないでしょ。」老管理人は顔を赤らめ、僕に詫びた。僕は間に入って、こう言ってやった。「いえいえ、構いませんよ。」管理人の話はもっともで、面白いと思ったからだ。
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そのとき、付添いの看護婦が入って来た。突然日が暮れ、たちまち天窓の上の闇はその濃さを増していた。管理人がスイッチをひねり、出し抜けに光を浴びた僕は目がくらんだ。
管理人から食堂に行って夕食を食べるように勧められたが、腹はへっていなかった。すると彼は、カフェオレを持ってきましょうと言ってくれた。カフェオレは大好物だ。そこで頼むことにする。管理人はすぐにお盆をもって戻り、僕はカフェオレを飲んだ。
今度は、タバコが吸いたくなる。でも、ためらいがでた。母さんの前でタバコを吸っていいものか分からなかったからだ。よく考えた挙句、なに構うものかと思った。管理人に一本あげ、僕らは一緒にタバコを吸った。
その合間に、管理人が言った。「そうそう、お母様のお友達もこれから通夜に来るんですよ。それが慣わしでね。私は椅子とブラック・コーヒーを取りに行かなきゃなりません。」
僕はもう管理人にはあまり注意を払わなかった。彼は部屋を出て戻ってくると、椅子を並べた。一つの椅子にコーヒー・ポットを置き、その周りにカップを積み上げる。それから母さんの棺を挟んで、僕の真向かいに座った。例の看護婦も部屋の奥にいて、こちらに背を向けている。何をしているのかは見えなかったが、腕の動きからすると、どうやら編み物をしているようだ。暖かかった。コーヒーのおかげで体が温まっていたのだ。開いた戸口からは夜と花の匂いが入り込んでいた。少しうとうとしたようだ。
外に軽い気配がして、僕は目が覚めた。目を閉じていたせいで、部屋は前よりはるかに白く輝いて見える。目の前には影ひとつない。物も、部屋の隅々も、曲線も、何もかも目が痛くなるほどクッキリ際立って見える。そのとき、母さんの友だちが入って来た。全部で10人ほど。無言のまま、このまぶしい光の中に滑り込んで来る。全員着席したが、椅子が軋(きし)む音もしない。初めて「人」というものを見るような目つきで、僕は彼らを眺めた。その表情、その衣服の隅々まで僕は何一つ見逃してはいない。
少しすると、女が一人泣きだした。二列目に居て、連れの女の陰にかくれていたので僕にはよく見えない。小さな声で泣いていたが、途切れることがない。決して泣き止まないんじゃないかと僕には思えた。他の連中は、女の泣き声が聞こえない様子で、身体を縮め、陰気に黙りこくっている。見つめているのは棺(ひつぎ)かステッキ、あるいは他の何かなのだが、ただそれだけを見つめている。女は相変わらず泣き続けていた。その女は別に知り合いでもないので、僕はひどく驚いていた。もうその泣き声を聞きたくないと思ったが、
7僕たちは長いことそうしていた。あの女のため息とすすり泣きがだんだん間遠(まどお)になる。何度か大きく鼻をすすって、ついに彼女は泣きやんだ。僕はもう眠くはなかったが、疲れて腰が痛くなっていた。今や、苦痛に感じられるのはあの年寄りたちの沈黙だ。
24 受持の看護婦が、ふしぎな声 音楽的な震えるような声「ゆっくり行くと、日射病」逃げ道はないのだ。
2️⃣ 25-
26 水のなかでマリイ・カルドナに再会した
29 ひよわな小男 顔見知り、お上品なひと。31
32- 3️⃣
33 船荷証券
34 セレストのところへ
サラマノ老人
36 レエモン・サンテス、同じ階のもう1人の隣人、界隈では、女を食い物にしているという、倉庫係。
42 ところで、レエモンは、自分では適当な手紙が書けないように思うから、あんたにその文句を作ってもらうことを考えているのだ、といった。
42 女の名前をいわれたとき、それがモール人だということがわかった
4️⃣ 44-
44 まる一週間、私はよく働いた
6️⃣ 61-
64 レエモンの友人、マソン
72 太陽はいま圧倒的だった
74 浜へと向き直り、歩き出した
79- 第二部。
1️⃣ 80-
83 ママンが死なない方がいいと思った→86 母を愛していたか、と
85 予審判事「あなたというひとは、面白いひとだ」
97 マリイが手紙をよこしたのは、ーーその時から、私の断じて語りたくないことどもが始まったのだ。
104- 3️⃣
111 記者のなかの年若の青年と、例の小柄な機械人形の視線を、
111 ほんとに厭だなあと思った。
→113 若い記者も、小柄な女も、
114 門衛
121 マソン サラマノ レエモン
ドラマの発端をなす例の手紙
124- 4️⃣
125 私の心をうち、私の興味を目ざめさせたものは、断片か、仕ぐさか、あるいは、全体から切り離された、長広舌そのものだけだ。(125)
131 自分の滑稽さを承知しつつ、それは太陽のせいだ、といった。
私のことをいうたびに、彼は「私」という言葉を使った。私は大そう驚いた。
→132 ある意味で、彼が私の身替わりになっているのだ、と
135 いずれにせよ、特赦請願があります。
→142 夜明けと特赦請願とが。
→144 特赦請願
136- 5️⃣
139 ママンから聞いた父のはなし
父はある人殺しの死刑執行を見に行ったのだ。
142 私にはほんとうの想像力というものがない。
145 146 御用司祭
157 ボオイ、自由航海団のもっとも興味深い人間、縮む男。
多麻吉と呼ぶこの若者のこともまた、